ニュースの概要
インドの保健当局は、一度きりの使用を前提に作られた医療機器や使い捨ての手術用品を、たとえ滅菌し直しても再使用してはならないと、全国の州と連邦直轄領に厳格な取り締まりを指示した。対象は心臓カテーテル、ガイドワイヤー、バルーンやアブレーションのカテーテル、透析関連機器、外科用ステープラー、腹腔鏡用トロカー、整形外科用ドリルビットなど幅広い。注射器や注射針の使い回しも報告されているという。政府は、再処理が不十分だと患者間で感染が広がるおそれがあり、材料の劣化で機器が壊れる危険もあると説明している。公立病院と民間施設の双方が対象で、費用を抑えるための再使用が現場に根づいていた実態が背景にある。
引用元: インド政府、単回使用医療機器の再使用を公立・民間施設で禁止(PTI / Nagaland Post)
分析・見解
「滅菌すれば使える」という思い込みが危ない
単回使用機器の再使用が絶えない最大の理由は、滅菌さえすれば安全だという素朴な理解にある。確かに、高圧蒸気などで微生物を死滅させることはできる。しかし、安全の条件は菌がいないことだけではない。
カテーテルやガイドワイヤーのような細く長い管は、内側に血液やたんぱく質が入り込む。これが残ると、滅菌の熱や薬剤が届かない。さらに、洗浄で落としきれなかった汚れは、滅菌後も「物としての汚染」として残る。菌を殺す工程と、汚れを取る工程は別物である。
材料が傷む問題は、検査でも見抜きにくい
もう一つの論点が、材料の劣化である。単回使用機器は、一回の使用に耐える強度と柔軟性で設計されている。何度も加熱や薬剤にさらせば、樹脂は硬くなり、金属は微細な疲労を起こす。
外科用ステープラーが途中で閉じない、ドリルビットが骨の中で折れる、バルーンが想定の圧で破れる。こうした不具合は、使う瞬間まで外見からは分からない。製造元は再処理後の性能を保証していないため、事故が起きたとき、責任は再使用した施設が全面的に負うことになる。
先進国でも通ってきた道と、線引きの違い
この問題はインド特有ではない。米国では、単回使用機器の再処理を認める代わりに、再処理業者を製造業者と同等に規制する仕組みを取っている。欧州でも、再処理する側が製造者としての責任を負う方向に整理された。日本は、単回使用の表示がある機器の再使用を原則として認めない立場に近い。
つまり、世界の流れは再使用を全面的に禁じるか、再処理を許すなら製造並みの品質管理を求めるかの二択に収れんしている。曖昧な現場判断に任せる国は少なくなっている。今回のインドの動きは、その二択のうち前者を、強い執行で押し通す選択といえる。
禁止だけでは解決しない、費用と供給の壁
再使用が行われた根っこには、高価な機器を何度も使いたいという経済事情がある。心臓カテーテルは一本数万円から数十万円することもあり、保険の充実していない地域では患者の支払い能力も限られる。
禁止を徹底すれば、手術の単価は上がる。安価な国産機器の供給、公的な調達による価格引き下げ、貧困層への補助が同時に進まなければ、手術を受けられない人が増える懸念が残る。取り締まりは入口にすぎず、本当の勝負は医療費の設計にある。
ビジネスへの影響
滅菌業務の線引きを文書で明確にしておく
医療機関や滅菌受託事業者にとって、まず必要なのは、再処理してよい機器と、してはならない機器の一覧づくりである。製造元の添付文書にある単回使用の表示を基準にし、現場の判断で例外をつくらない。
同時に、滅菌の依頼書に機器の区分を書く欄を設けるとよい。受託側が単回使用品を受け取った時点で止められる体制があれば、事故の連鎖を断てる。院内の滅菌部門と外部委託先で、同じ基準を共有することが肝心である。
追跡できる記録が、事故のときの最大の防御になる
万一、感染や機器の不具合が起きたとき、どの患者に、どのロットの機器を、いつ使ったかを即座にたどれるかが問われる。バーコードや使用記録の電子化は、費用に見合う備えである。
機器メーカーや輸入商社にとっては、使い回しを防ぐ設計も商機になる。一度使うと機能が止まる仕組みや、開封後の使用履歴を残す工夫は、規制強化の局面で選ばれやすい。
海外調達や進出を考える企業の注意点
インド市場に機器を納める企業は、自社製品の単回使用表示が現地の言語で明確か、使用後の廃棄手順が示されているかを見直したい。廃棄ルートが整わなければ、安価な再使用に流れる圧力は残る。回収と廃棄を含むサービスとして提案できれば、価格競争とは別の価値を示せる。